164. 新字、新かな、捨がな有


少し前のインタビュー番組で小説家の自筆原稿が映ったとき,作品タイトルの右上に押してあるハンコに目がとまりました。一時停止してよく見る「新字「新かな「捨がな有と3つ押してあります。これは、見たことないかも! 組版の現場からも遠くない矢来町の出版元での原稿整理時のゴム印でしょうか。

は手書き

具体的には、以下の指示のはず。
・新字  :常用漢字・人名用漢字は、新字体を使用。
・新かな :現代かなづかいを用いる。
・捨がな有:拗音および促音に小書きの仮「ゃ・ゅ・ょ・っを用いる。

1981(昭和56発行の文芸誌の原稿のようで、新しい表記がおおむね定着している頃でしょう。にもかかわらず、3つのゴム印を別々に押して、わざわざ指示するというのは、文芸の世界では「旧字「旧かな「捨がな無で組版するものも、まだ古典・詩歌等で少なからずあったのでしょうか。

*戦後の昭和21年に内閣告示三十三「現代かなづかいから三十数年、その後、昭和61(1986年に内閣告示第一「現代仮名遣いがでる少し前の時代です。

「捨がな無というと、法令では30年ほど(昭和の終わり頃まで、拗音および促音にも大きい仮「や・ゆ・よ・つを用いていたようです。それを、1988年12月より、捨て仮(小書きの仮名「ゃ・ゅ・ょ・っを用いることになりまし(参考「法令における拗音及び促音に用い「や・ゆ・よ・つの表記について、5-6頁

「旧字」・「旧か(歴史的仮名遣い)」というと、組版の現場では、電算写植の時代に先輩方が、明治・大正に出版された書籍・雑誌の現代表記化の仕事に十数年に渡りかかわっていました。古い表記を新しいものにして出版するというものです。そういう意味では原典として、古い表記は見慣れていましたが、あえて旧字・旧かなで組版するというものには、あまり遭遇したことがありません。ただ、昭和の終わりころの他の版元の資料を見ると“古文や詩歌を除き現代仮名遣いのような規定を見ることができます。旧字・旧かなの表記が残る分野も一部にはあったのでしょう。

平成も終わりに近づき「旧字「旧かなが何なのか、また、かつては使われていたことを知らなくても、古典を扱うような専門書等の仕事を除き、組版・DTPではそれほど支障がありません。ただ「捨がなという、すでに聞きなれない言葉だけは、まだ忘れたころに見かけることがありそうです。ルビを拗音・促音も小さい仮(小書きの仮名ともいうを使わずに組む際に「ルビは、捨がな無と指定される可能性があります。

~おまけ~

“歴史的仮名遣いで検索していたら、近所の印刷会(大手出版社のグループ会社の書籍校正者の募集要項がヒットしました。採用の優先条件で“字形、字体の基礎知識があり、正字と新字を認識しながら作業できる方とならんで“歴史的仮名遣いと現代仮名遣いの対応を認識しながら作業できる方というのがあり、今の時代でも必要とされるスキルであることに驚きました。

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