71. 常用漢字を正字に!?
- 2015年02月06日
- 校正
組版の現場では「正字に」という朱字をときどき見かけます。修正後にどのような字形にするかが合わせて書かれていればよいのですが、「正字に」のみですと、修正作業者は字形パレットを開いて正しいと思われる字形を選ぶことになります。また、校正者も修正結果が意図されたものかどうか判断に迷うことがあります。
「正字」という言葉自体は、いくつかの意味があり、曖昧なところがあるものです。
《辞書的な意味》 | |
・ | 点画を略したり変えたりしていない、正統(正式)とされている文字(←→略字・俗字)。 |
・ | また、常用漢字の新字体に対して、そのもとの文字(いわゆる旧字体)。 |
《校正での意味》 | |
表外漢字(常用漢字表にない漢字)で、略字・俗字でない正統とされている文字(おもに康煕字典体)。 |
ある出版社の校正手引(20-30年くらい前のもの)では、漢字の使用法について、おおむね以下のような二段構えとなっていました。
(1) | 常用漢字・人名用漢字に含まれるものはおのおの定められた字体(新字体)による。 |
(2) | 表外漢字は正字体を使用する。 〔例〕頚→頸 |
* * * |
頻度・頻繁の「頻」で歩の「少」の右側の点がある字形に対して、ただ“正字に”という指示がありました。修正作業者は朱字が入った漢字を選択し、字形パレットを開いて2つ表示される字体のうち、校正紙の文字ではない「少」の右側の点がない字体を選択することになります。
常用漢字表で示されている字形 (JIS83, JIS2004の字形でもある) |
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常用漢字表で参考として( )で示されている康煕字典体 (JIS78字形でもある) |
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その出版社の漢字使用法の前提が、“常用漢字は新字体”というものであるのなら、その校正指示は誤りかもしれませんが、朱字が入っているので修正しないわけにもいきません(著者の使う漢字を使用する等の別の基準がある可能性もあるので)。
また、瀕死の「瀕」(表外漢字、人名漢字)は、と「少」の右側に点のない字形がいわゆる正字(康煕字典体)で、表外漢字表でも同様の字形が示されています。この漢字は2004JISで正字に字形変更されたものです。よって、古いフォント等では、同じコードで「少」の右側に点のある字形となります。ややこしいです。 |
正字にという校正指示は、どこが変わるのかを字形でも示すと、修正作業者・校正者にきちんとどのように修正したいのかが伝わります(出版社の校正室のチェックが入っているものは、字形が示されていることが多いようです)。
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