142. 秀英5号の「お」
- 2016年09月20日
- その他
小説を読んでいて、昭和初期に書かれたという設定の作中作(作品のなかに登場する作品)のところで使われていた書体の「お」の字形に目が引っ掛かりました。組版の現場の詳しい担当に、このかなは何?と見せると、「秀英○号?」と。活字書体の2大源流のひとつとして知られる秀英書体のうち、昭和初期に作られた秀英五号をリファインした仮名フォント「秀英5号」でした(モリサパスポートで使えます)。
参考:秀英体のデザイン(DNP)
◆「秀英5号L」
「秀英5号L」の見本で、あ行~た行の20字のうちでは、「お」「き」「さ」「そ」「た」が個性的に感じます。漢字のリュウミンとセットで使われるものですが、小説では装丁者の意図どおりノスタルジックな雰囲気が存分に感じられました。ただ、その小説の文体で頻出していた「お」の独特な字形が、本文13Qのサイズであっても気になり、慣れるまでちょっとの間は小説を読むことに集中できなくなってしまいました。「お」の字形が、ひとつの「書」のように流麗で、魅力的にすぎるのが原因かもしれません。
この原稿を書いているときに、MS明朝の「お」を大きく印字すると、普段の10.5ptではよく見えない、意識したことのないつなぎの部分がずいぶんと個性的に見えました(リュウミンや小塚明朝もよくみると同じような筆遣いに見える「お」なのですが)。小学校で習う筆順とは異なる筆遣いです。MS明朝は、リョービの明朝体(本明朝-L)の字母を元にしているそうです。
~おまけ~
ヒラギノや游書体を制作してきた字游工房の鳥海修氏の著作『文字を作る仕事』(2016年7月)の書評がでていました。「水のような、空気のような」本文書体を目指して文字を作る仕事をされてきたとのこと。印象的なのが、「の」の字ひとつとってもデザインが書体によってそれぞれ異なることを見開きでみせている見本組(〈資料2〉明朝体いろいろ、〈資料3〉ゴシック体いろいろ;p.22-23)です。明朝体10種、ゴシック体10種のセレクトも、本文書体を作ることを生業にしてきた方の見識なのかな、と感じました。明朝体は、先頭がリュウミンL-KLで最後がMS明朝、ゴシック体は、先頭が中ゴシックBBBで最後がMSゴシックとなっていました。
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