171. 行間を広くして場面転換
- 2017年07月18日
- その他
美術にまつわるミステリで、改頁したところで突然行間が広くなっていて、これは何!!と、前後のページの行間がどうなっているのかを、つい見返してしまいました(組版業者には、昔みたことがある不具合のような、心臓によくない変化です)。そこは、1つの事件が終わった後の、各章のエピローグ的な場面を、組版により演出しているもののようでした。
ポイント表とピッチ(歯送り)表をあててみると、以下のような組みでした。
四六判 | |||
◆ | 通常の本文 | : | 9ポ×43倍、21H送り、19行〔小説としては狭い行間〕 |
◆ | エピローグ的本文 | : | 9ポ×43倍、29H送り、14行 |
《組版イメージ》
通常の本文より行間が2mm広く、文字の大きさよりも行間の幅が広くなっています。タテ組み小説の行間としては、広めの行間「本文の文字サイズ全角分アキ」よりも、さらに少し広いくらいでしょうか。この変化により、場面が転換したことが強く意識させられます。事件の余韻に浸りながら、本編とは違ったテンポで、(まだ書かれていないことを考えながら)行間を読んでほしい、という演出なのでしょうか。面白いですね。
わざわざ、エピローグ等の小見出しを立てることなく、行間を広くするというシンプルな組版設定の変更のみで、それが表現されているように感じました。しかし、組版的な変化に気を取られて、さらさらと読んでしまい、肝心なことは読めていなかったような気がします。読み直した方がよさそうです。
このコラムを書くときに、もう一度全体を見返してみると、この本のプロローグ部分も「行間が広い方」の組版となっていました。広い → 狭い(通常)の変化では、気が付かなかったのに、狭い(通常)→ 広いの変化だと、アレ!と、なるものなのでしょうか。
参考:「彼女の色に届くまで」似鳥 鶏、KADOKAWA、2017年
~おまけ~ | |
《行間・行送りの雑学》 | |
① | 書籍等の組版指定では、行送りの単位は、mmとの換算がしやすい歯(H)が使われることが多いでしょうか。1級=1歯=0.25mmを基本単位としていた電算写植の経験を経た方々の影響を受けているのかもしれません。小口やノドと版面の間のアキを、ミリ単位できっちり指定するのに便利です。 |
② | 行間をどのくらいにするかを考えるときは、ポイントでシンプルなやり方があるそうです。タテ組み本文9ポの場合、行間を全角アキの9ポから、8ポ→7ポ→6ポの計4つあたりを基準として考えます。この場合は、小口側のアキのみミリ単位で指定して、ノド側のアキはナリユキと指定しておけば、小数点以下の細かい計算の面倒はありません。 |
③ | InDesignでは、文字サイズに対する比率(規定値:175%)で、行送り値を指定できます。本文9ポ・行間9ポ(行送り18ポ)の行間全角アキは200%です。 |
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